AIとのチャットだけでは、ゴールできない:AIを導くマネジメント力が問われる時代

高額なAIセミナーは不要です。AIを最強の部下にし、失われゆくベテランの知恵を「仕組み」として未来に残すための、本質的なヒントをお届けします。

AIとのチャットだけでは、ゴールできない:AIを導くマネジメント力が問われる時代

今月の「テックてく歩く」は、私たちの仕事の価値が「実行」から「構想」へ、さらに「判断」へと移動していく中で、どうすれば私たちがテクノロジーに置き去りにされず、むしろ相棒として活用できるか考えてみましょう。

はじめに

活版印刷が広がったとき、私たちの仕事は大きく変わりました。情報は限られた人の手から離れ、標準化された形で誰もが読めるものになり、失われていた知恵が蓄えられるようになりました。その過程で、なくなった役割もあれば、新しく生まれた職業もあります。AIの時代も同じです。特別な存在として語られる今は過渡期で、近い将来、AIは判断を支える基盤のひとつとして「当たり前」になっていきます。

いま起きている変化は、単なる道具の入れ替えではありません。仕事の価値が「実行(作る・入力する)」から「構想(何のためにやるか)」へ、さらに「判断(次に何をするか)」へと重心を移していることです。生成AIは「実行」に強い一方で、その後の確認や共有、登録などは人が担いがちです。結果として「次は何をしますか?」の係が生まれ、忙しさが減りません。

このポストでは、私たちの価値がどこへ向かうのか、その新しい地図を一緒に描いていきます。AIの出力を起点に「次の判断と行動」までつなぐ考え方を、活版印刷の教訓になぞらえながら整理します。大きな投資よりも、手元のAIとの対話と小さな標準化から始める一歩を、一緒に見ていきましょう。

コラム 1:「実行」で止まりやすい理由と、「判断」まで進める方法

現状のデスク業務は、AIの出力を確認し、別のシステムへ「手動で入力(コピペ)」するのが当たり前の運用になりがちです。これは悪習というより、業務設計が「人の判断と手操作」に依存している結果です。つまり、AIは「実行」までしか担っておらず、その先の「次に何をするか」の基準が曖昧なまま、人に戻っているのです。

リーダーは部下やチームメイトに対し、作業ステップごとにいちいち指示を出しません。代わりに、目的・ゴール・判断基準・移行条件(次の工程へ進む条件)を共有し、自律的な実行を求めます。AIでも同じ発想が有効です。

女性がフローチャートを指し示し、隣でロボットアームが書類やキーボード操作をする職場シーン。手前に大量の紙束、机では男性が疲れて伏せており、背後の画面や歯車がワークフローと自動化、情報過多による混乱を示すイラスト。

そこで、まず「判断の版」を作ります。請求書を例に取れば、

  • 金額が社内基準を満たしているか(判定)。
  • 満たすなら会計システムへ登録し、担当者へ通知する(次の手順)。
  • 例外(基準外/不備)なら、誰にどうエスカレーションするか(例外対応)。 この3点を短いチェックリストで言語化し、AIの出力に当てます。条件を満たした場合は、連携ツールで次のアクションまで自動で進める――この一連を「エージェント的な自動化」と呼びます。

難しいプログラミングは不要です。まずは既存の連携(フォーム→スプレッドシート→通知)やテンプレート化から始め、うまくいった言い回しや手順を共通プロンプトとして保存します。活版印刷が「版」を作って再現性を高めたように、私たちも「判断の版」を作り、繰り返し使える形に整えます。

学び方もシンプルで構いません。高価な講習に頼る前に、いま手元のAIに「業務Xを本当に省力化するには、あなた(AI)と私がどう協働するとよいですか?」と尋ね、今日から試せる提案を小さく回す。現場のコピペ運用を責めるのではなく、“版づくり”で徐々に「人の判断と手操作」を外していくことが、現実的な前進になります。

コラム 2:「知の断絶」を防ぐ――暗黙知を形式知へ

印刷が広がる前、知恵の多くは人の頭の中にありました。版に起こすことで、個人の記憶に頼らずに受け渡せるようになった――この教訓は、AIと自動化の時代にもそのまま通用します。

市背景の淡いブルー基調。中央で男性が大判資料を掲げ、左右のメンバーがタブレットと資料を確認。前景では2人がPCで入力やフローチャートを操作。上空にデータ/ドキュメントのアイコンが漂い、デジタル化・自動化の流れを象徴。コラムの主張である「ベテランの暗黙知の形式知化」「標準化による継承」「AIは実行だけでなく判断まで」を視覚的に示し、技術継承が滞ると生じる不安全とDXの「知の断絶」への警鐘を表す説明文。

先日、NHKで報じられた「原子力規制庁 原発の安全守る職員は50代でも“若手”人材不足が深刻に」(記事リンク)は、「知の断絶」に警鐘を鳴らしています。
原子力発電はスイッチを切って終わる設備ではありません。止めて更地にするまでに数十年の工程と、連綿と続く専門知の継承が不可欠です。将来性が不透明だと若手が入りづらくなり、現場の経験則や判断の勘どころが途切れる――これが「知の断絶」が引き起こす現実的な不安全です。

だからこそ、レガシーを捨てるのではなく、暗黙知を「誰でも扱える形」にして標準化し、仕組みの上で受け渡すことが重要です。具体的には、「用語の定義」「手順」「チェックリスト」「例外とエスカレーション」を一枚のドキュメントに落とし、チームで更新する。AIの出力にもこの標準を当て、判断の版を重ねる。活版印刷が版を作って再現性を高めたように、私たちも判断の版を作り、現場の知を未来へ渡す土台にします。

コラム 3:小さな会社の大きな挑戦 ❶挑戦の始まり

新連載 e-bookを公開しました。町工場「つつみ製作所」を舞台に、ベテラン社長と新入社員が、紙と電話中心の現場から一歩ずつDXへ進む物語です。

「黒電話を愛するベテラン社長が、たった一枚の請求書をPCで作るまでに、どんな葛藤があったのか…」

第1巻は、たった一枚の請求書を「パソコンで出す」までの小さな成功がテーマです。抵抗や不安、黒電話への愛着を尊重しながら、「簡単なことから始める」プロセスを描きました。これはIT導入の手順書ではなく、暗黙知を形式知へ、人に寄り添う標準化を進めるための読みものです。

現場でDXに悩む方、まずは一歩を始めたい方に、やさしく背中を押す一冊。コーヒー片手に、物語から“次の一手”を見つけてください。

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  • Google Workspace(ビジネススタンダード)
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リデザインのためのアクション

  1. あなたの業務の「次は何しますか?係」を特定してみよう
    AIやツールが「実行」を終えた後、次にあなたが手動で判断・操作している業務を3つ書き出してみましょう。その「判断と操作」こそが、次に自動化(エージェント化)すべき課題です。
  2. 生成AIに「あなたはどう使われるべきか?」と聞いてみよう
    高価なセミナーを探すのではなく、今使っているAIに対し、「私のこの仕事(具体的な業務内容)を、真の意味で効率化するには、私とあなたはどう協働すべきか?」と具体的に問いかけてみましょう。
  3. 身近なベテランの「知恵を盗む」時間を設定してみよう
    あなたの部署のベテランに対し、「最もヒヤリとした経験」と「それを避けるための判断基準」について話を聞く時間を意識的に作りましょう。その場でメモに言語化するだけでも、「知の断絶」を防ぐ新しい標準化の種となります。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。 クノロジーは、人を置き去りにするためのものではありません。活版印刷が知恵を版に乗せ、未来へ渡したように、AIの実行力に私たちの判断の基準と次の一手をつなぎ、仕組みにしていく。その積み重ねが、現場の負担を減らし、知を未来へ渡す力になります。大きな一歩より、身近な一歩から。私たちの速度で、前に進んでいきましょう。