なぜ、「あなた」なのか?『1万円起業』に学ぶ、経験を価値に翻訳する技術

あなたの「なんてことない経験」に、実は隠れた「値札」がついているとしたら?2013年刊行『1万円起業』のエッセンスと日常に眠る自分の資産を見つけ、それを「価値」に変える視点をお届けします。

なぜ、「あなた」なのか?『1万円起業』に学ぶ、経験を価値に翻訳する技術

「なにか新しいことを始めたい。でも、自分には人に見せられるような特別なスキルなんてないし……」

そんなふうに、自分の「手札」の少なさを感じて、最初の一歩を踏み出せずにいるとしたら。そんな方にこそ手に取ってほしいのが、クリス・ギレボーの著書『1万円起業』です。

この本が発刊されたのは2013年。今から10年以上も前のことです。私は以前からタイトルこそ知っていたものの、実際に触れたのは最近のこと。移動中に聴いていたオーディオブックのおすすめリストに現れたのがきっかけでした。

10年以上前の本が、なぜ今もなお色褪せず、多くの人に読み継がれているのか。それは、ここに書かれていることが時代に左右されない「普遍的な本質」だからなのだと、聴き終えて深く納得しました。

<目次>

「スキルの因数分解」で新しい地図を描く

シンプルな白背景に、「1万円起業」タイトルと起業のヒントが並ぶ本の表紙画像

私は新卒以来、何度かの転職を経験してきました。しかも、そのたびに業種も職種もバラバラ。一般的なキャリアパスとは少し違う、いわゆる「一貫性のない」道を歩んできました。

しかし、だからこそ人一倍、「自分のスキルや実績の棚卸し」に向き合う機会が多かったように思います。全く異なるフィールドへ飛び込むとき、以前の肩書きは通用しません。嫌でも「今の自分に何ができるのか」をゼロから考え、言語化せざるを得なかったのです。

そんな経験を重ねてきたからこそ、本書が説く「あなたがやってきたことには、別の使い道がある」という考え方には、強く共感しました。例えば「教師」という仕事を、職種名だけで捉えるのではなく、その要素を分解してみる。すると「教材を作る構成力」「生徒の心を開く対話力」「長期的な計画を立てる管理能力」といった、さまざまなスキルが浮かび上がってきます。

私はこれを「スキルの因数分解」と呼んでいます。職種というパッケージを解いて要素に分ければ、それは別の場所でも通用する「ポータブル(持ち運び可能)な資産」になります。

バラバラな職種を経験してきた私にとって、この「因数分解」こそが、新しい扉を開くための唯一の武器でした。スキルの因数分解という視点は、一本道だと思っていたキャリアの隣に、新しい可能性の小道を見つけるための、魔法のような問いかけになります。

「情熱」と「市場」が重なる交差点を探す

もうひとつ、本書を読みながら改めて考えさせられたのが「情熱」と「市場」のバランスです。

自分の中のスキルを見つけたとき、私たちはつい「自分のやりたいこと」をそのまま押し出してしまいがちです。もちろん情熱は欠かせないエンジンですが、それだけでは不十分なこともあります。

ベクトルが自分に向きすぎて、誰にも求められないのはあまりに切ない。かといって、外からの「売れそうなもの」ばかりを追いかけていては、いつか自分の心が渇いてしまう。

大切なのは、自分の内側から湧き出る「好き」という熱量と、外側の誰かが抱える「困りごと」や「願い」が重なるスイートスポットを探し続けること。この本は、その旅に出る際の確かなコンパスになってくれます。

「なぜ、あなたなのか?」への答えを用意する

フリーランスであれ会社員であれ、仕事である以上、その価値を決めるのは常に「他者」です。誰かの役に立って初めて、そこに価値が生まれます。

そのとき、私たちは常に「なぜ、他の誰でもなく『あなた』にお願いするのか?」という問いに晒されています。特に、私のように業種をまたぐ転職をする場合、この問いはさらに切実になります。

「未経験のあなたに、何ができるの?」という視線に対して、先ほどの「因数分解」が活きてくるのです。

分解して見つけた自分の強みを、相手が「なるほど、それは助かる」と思える言葉に“翻訳”して伝える。この翻訳作業こそが、「私に頼む理由」を相手に手渡す行為になります。

「知っている」を「できる」に変える難しさ

1万円で始められる小さなビジネスであっても、それを育てていく本質は、大きなビジネスと何も変わらない。

「当たり前のことじゃないか」と思われるかもしれません。でも、「知っている」ことと「できている」ことの間にはギャップがあります。

私自身、これまでのキャリアを通じて、そしてこの本を聴き終えて、その厳しさと面白さを改めて突きつけられた気分です。たとえば、私にとっての今の課題は「継続的な発信」です。

どうしても億劫に感じてしまい、つい先延ばしにしてしまう。かつてはそんな自分に嫌気がさしていましたが、今は「テクノロジーをうまく使って、この性格を乗りこなせないか」と、自動化などの仕組みづくりを模索しています。

10年前の本が教えてくれたのは、ノウハウ以上に、自分の足元を見つめ直す勇気でした。もしあなたが「自分には何もない」と立ち止まっているのなら、ぜひ一度、耳からでも目からでも、この「普遍的な知恵」に触れてみてください!